『翻訳できない世界のことば』には、日本語では一言で表現するのが難しい、世界のさまざまな言葉が紹介されています。中には思わず声にしたくなるようなことば、「それどこで使うの?」ということば、詩のような心を癒してくれることば、などなど。
今の自分の心に響くことばを見つけられるのが、『翻訳できない世界のことば』の魅力です。
私はこの本と出会ったのが、職場の人間関係に疲れた時でした。
今回は、『翻訳できない世界のことば』を実際に読んでみて感じたことや、特に印象に残った言葉を紹介します。
『翻訳できない世界のことば』とは?
まずは、『翻訳できない世界のことば』のどんな人が書いたのか?どんな本なのか?ご紹介したいと思います。
どんな本?
手にとってみるとわかると思うんですが、絵本のように表紙が硬くて、可愛らしいイラストが描かれています。
当時20代のイラストレーターを生業にしていた女性の著者。さまざまな国に住んだことがあり、原著は『LOST IN TRANSLATION』で、日本語版では前田まゆみさんが翻訳しています。
どんな本か?詳細は以下の通りです。
- 著者:エラ・フランシス・サンダース
- 翻訳:前田まゆみ
- 出版社:株式会社 創元社
- 発売年:2016年4月20日
- ページ数:本文109ページ
- 本のコンセプト:ニュアンスを表現するのが難しい、国独自のことばをイラストと短い文章で紹介している。
どちらかというと、大人向きの本かなという印象です。
というのも、読者の経験や体験によって、ことばを解釈するタイプの本です。同じ言葉でも自分がどんな経験をしてきたかによって感じ方が変わります。なので、「りんご=Apple」という分かりやすい本ではないことを先にお伝えします。
「こういう意味なのかな?」「こういう時に使うのかな?」と想像しながら、楽しめる作品です。
素敵なことばが沢山出てくるので、大切な人への贈り物としても喜ばれること間違いないでしょう。
「翻訳できない」ってどういうこと?
「翻訳できない=日本語に訳せない」という意味ではなく、
「1つの日本語では、その言葉が持つニュアンスや感覚を完全には表現できない」という意味で、紹介されています。例えば日本語でいうと「ボケッと」や「木漏れ日」「わびさび」です。日本人では当たり前に使っていることばですが、他国からすると単語1つでは翻訳しづらい言葉でもあります。
- どういう時にその言葉を使うのか
- 場面やエピソード
言葉の意味だけではなくて、情景もセットで伝えないと他国の人には伝わりにくい。
そういったことばを「翻訳できない」と、著者は表現しています。
『翻訳できない世界のことば』で印象に残った言葉
『翻訳できない世界のことば』を実際に読んでみて、私が心に響いたことばを紹介します!
先に、この記事で紹介することば7つを一覧にしておきます。気になることばがあったら、表の言葉をタップすると該当の説明までジャンプできます。
①「モーンガータ」/幻想的なことば

- 言葉の意味:海や湖などの水面に映った月明かりが、まるで一本の「道」のように長く伸びて見える様子
- どこの言語なのか:スウェーデン語
- どういう場面で使われるのか:ロマンチックな雰囲気の時に使うことば
ことばを知ってどう感じたか
まず「水面に映る月が道のように見える」って、めちゃくちゃ素敵な表現だと思いませんでしたか?
言われてみれば、確かに〜って納得するんですが、当たり前の風景で目を向けなくなってしまった自分に気づきました。ロマンチックな場面で使うそうです。似た表現で、日本語なら「月が綺麗だね」と、月を見ながら使うことばがあります。水面を見てロマンチックなことばを伝えるスウェーデンと、月を見ながら伝える日本との違いが面白いなと思って紹介しました。
道のように見える月明かり、その先に何があるのか、とっても気になります。
② ヒラエス/哀切な気持ちのことば

- 言葉の意味:帰ることができない場所、過ぎ去った過去の追憶に対する哀切なことば
- どこの言語なのか:ウェールズ語
- どういう場面で使われるのか:懐かしみ・戻れない現実感や喪失感を表したいとき
ことばを知ってどう感じたか
日本語で似たようなことばを探したけど、見つかりませんでした。日本語で帰ることができない場所、それに対する哀愁の気持ちを一言で伝えるのは難しいなと思います。意味を調べると「ホームシック」よりも深く、もう戻れないという意味が含まれているそうです。
一見、悲しいことばに聞こえますが、私は逆だと思っています。美しい追憶を思い出して、新しい一歩を踏み出すための言葉だと解釈しました。
③ラズリュビッチ/恋がさめた時のことば

- 言葉の意味:かつて愛した人が、別人のように変わってしまってほろ苦い気持ちになる
- どこの言語なのか:ロシア語
- どういう場面で使われるのか:愛していたが蛙化してしまったとき
ことばを知ってどう感じたか
現代風に近い感覚を表す言葉として「蛙化現象」を思い浮かべました。実はロシア語にもあったんです!
好きで好きで、どうしようもなかったのに、相手の嫌な部分やだらしがない部分で幻滅。まるで別人みたいに感じてしまう。そんな恋愛をしてきた人も多いのではないでしょうか。相手に対して冷めてしまい、「なぜ好きになったのかな?」と恋が色褪せてしまう時に使うみたいです。
私がこの言葉が好きな理由は、恋人に隠れて言えるからです。「蛙化しちゃったわ〜」というとバレてしまうので、こっそり「ラズリュビッチ!」と言うとスカッとする。何かの呪文を唱えるみたいな感じです。ロシア語にも似た言葉があるんだなって勝手に親近感が湧いています。
④クンマーシュペック/ヤケ食いをした時に使う言葉

- 言葉の意味:感情的になってやけ食い、食べ過ぎが続くときの名詞
- どこの言語なのか:ドイツ語
- どういう場面で使われるのか:食べ過ぎが続いて太ってしまった時
ことばを知ってどう感じたか
ストレスや、悲しい時に食べ過ぎてしまうのってあるあるですよね。
この言葉を直訳すると「悲しみのベーコン」。
なぜベーコンなのか?深掘りすると、悲しいことがあったときに食べてしまう肉、後日、身体についてしまった肉(脂肪)を皮肉にも、ベーコンに見立てているそうです。鏡に映る自分を見て「悲しみのベーコンだらけだなぁ」と表現するドイツ語、おもしろ過ぎませんか?笑
「太ったなぁ」よりも「クンマーシュペック!」の方が罪悪感がなく、自分に対しても優しくなれる気がします。
⑤グルファ/水の測り方

- 言葉の意味:片手の手のひらに乗らせれるだけのひとすくいの水
- どこの言語なのか:アラビア語
- どういう場面で使われるのか:水を測るときに使う言葉
ことばを知ってどう感じたか
水をはかる言葉って、日本だとマスやスプーン、計量器などが挙げられます。はっきりしない水の量を手のひらで測るって言うのは斬新だけど、オシャレだと思いました。手のサイズによっても測れる水の量は違う、けどその「曖昧さ」の単位が存在するのが面白い。
また、「ほんのわずかな水を大切にしよう」と言う意味もあるなと感じてます。当たり前のように水道から水が飲める日本。他国からすると「豊かさ」でもある。使う場面は正直ないけど、表現が美しくて大好きなことばです。
『翻訳できない世界のことば』読んで「日本語にも欲しい」と思った言葉
『翻訳できない世界のことば』を読んで、これ日本語にも欲しいなと思ったものをご紹介します!「これが言いたかったんだよ〜」「これこれ!」と思わずなった、日常生活で使いたい言葉がこちら。
ヴァシランド|経験を重視する旅

「ヴァシランド」というスペイン語のことばです。
意味は、どこへいくかよりも「どんな経験をするか?」を重視した旅のことをいいます。
自由で計画に縛られない旅って、一言で日本語で表現するの難しい気がします。冒険の旅といってしまえばいいのか?それだと厨二病になってしまうのかな?とか考えたり。
つい予定で埋めがちな旅行ですが、「ヴァシランド」のような経験を味わう旅も良いですよね。あえて観光地ではなく、外れた郊外へ行ったり。実際に住んでいる人の暮らしを目にしたり。全く地図を見ずに歩くのも良い。
目的地よりも、その旅で何を経験するかを大切にしていきたいなと思いました。
「ダチョウの政治」で発見があった

「ストラウスフォーヘルポリティーク」直訳すると、ダチョウの政治。
これはオランダの言葉で、悪いことが起きているのに気づいていないフリをするときに使うそうです。日本語で近い言葉だと「現実逃避」が近いかもしれません。現実に目を背けて、知らんぷり。
なぜダチョウなのか、調べると「ダチョウが危険を察知したときに頭を砂に隠し、自分からは見えなくなっているから安全だと思い込む言い伝え」という特徴を比喩にしたんだと思います。動物をことばにしているのが面白いし、事が済むまで、見えてないフリをするのって案外アリなのでは?
全部の問題に真正面から向き合わなくてもいい。
私は職場の人間関係に悩んだとき、苦手な人と向き合おうとしていました。けれど、向き合っても解決するどころか関係がギクシャクする。このことばを知ってから、苦手な人とは無理に付き合わず、「見ないでおこう」と決めました。視界からあえて外す。それから何を言われても、スルースキルが高まったように感じます。
見なければ、セーフ!!みたいな、緩さも時には大切だよねって発見があった言葉でした。
『翻訳できない世界のことば』を読んで感じた3つのこと
ここまで紹介した言葉を読んでいると、単に「珍しい外国語を知れて面白い」というだけではなく、言葉そのものについて考えるようになりました。『翻訳できない世界のことば』を読んで、私が特に感じたのは次の3つです。
言葉があることで、自分の感情に気づける
この本を読んで一番面白いと思ったのが、「今まで自分の中にもあったのに、名前を知らなかった感情」に気づけることでした。たとえば、ヒラエスのように、過去や戻れない場所を思い出したときの、懐かしさと寂しさが入り混じったような感情。
日本語で説明しようとすると、「懐かしい」「寂しい」「切ない」など、いくつかの言葉を組み合わせなければ伝えにくい感情があります。でも、世界には、それを一つの言葉として表現している文化がある。
ことばの由来まで深掘りすると、新しい発見や知見につながって少し安心するような気持ちにもなりました。言葉は、誰かに気持ちを伝えるためだけのものではなく、自分自身の感情を見つけるための道具にもなるのかもしれません。
世界には「正解」ではなく「違う見方」がある
日本で暮らしていると、知らないうちに「こうするのが普通」「こう考えるのが自然」という感覚が身についていきます。でも、この本に出てくる言葉を見ていると、同じ世界を見ていても、国や文化によって切り取り方が全然違うことに気づきます。
たとえば、グルファのように水の量を「手のひらにひとすくい」と捉えたり、ヴァシランドのように旅を「どこへ行くか」ではなく「どんな経験をするか」という視点で考えたり。
「そんな見方もあるんだ」と知るだけで、自分が当たり前だと思っていた価値観が少しだけ柔らかくなる気がしました。特に私は、何かに悩んでいるときほど「こうしなきゃ」「こうするべき」と考えてしまいがちです。
そんなときに、世界には自分とは違う考え方がたくさんあると知っているだけでも、少し気持ちが楽になるのではないかなと思います。
言葉を知ると、日常の景色が少し変わる
モーンガータを知ってから、水面に映る月明かりを見たら、きっと今までとは少し違って見えると思います。
ただの「月明かり」ではなく、そこに一本の道が伸びているように見えるかもしれない。
クンマーシュペックを知ったあとに食べ過ぎてしまった日には、
「やってしまった……」と落ち込む代わりに、
「悲しみのベーコンが増えちゃったな」なんて、オシャレすぎて笑える。
職場の人間関係に疲れていたときにこの本を手に取った私は、言葉を知ることで「自分の感じていることを、もっと自由に考えてもいいのかもしれない」と思えるようになりました。だからこそ、この本は言葉が好きな人だけではなく、今の自分の気持ちをうまく言葉にできない人にも読んでほしい一冊です。
『翻訳できない世界のことば』はどんな人におすすめ?
ここまで読んで、「ちょっと面白そう」と思った人もいるのではないでしょうか。個人的には、次のような人に特におすすめしたい本です。
言葉や日本語が好きな人
日本語には「木漏れ日」「わびさび」など、日本語ならではの感覚を表す言葉があります。
それと同じように、世界にも「こんな感覚を一つの言葉で表すんだ!」と驚くような言葉がたくさんあります。語源や言葉のニュアンス、外国語そのものに興味がある人なら、ページをめくるたびに新しい発見が見つかります。
自分の気持ちをうまく言葉にできない人
「悲しいわけじゃないけど、なんとなく寂しい」
「懐かしいけど、もう戻れないような気がする」
「嫌なことがあったわけじゃないのに、なんとなく心が疲れている」
この本には、そんな「名前のついていない気持ち」に近い言葉がたくさん登場します。読んでいるうちに、「これ、私かもしれない」と思える言葉に出会えるかもしれません。
海外の文化や価値観に興味がある人
この本は、外国語の辞書ではないです。
言葉の意味だけではなく、その言葉が生まれた背景や、その国の人たちがどんな感覚を大切にしているのかまで想像しながら読めるのが魅力です。
海外旅行が好きな人や、外国の文化に興味がある人にもおすすめです。
ちょっと変わった本を読みたい人
一般的な小説や実用書とは違って、短い言葉とイラストを眺めながら少しずつ読める本なので、「何か面白い本を読みたいけど、重たい本を読む気分ではない」というときにもぴったりです。
最初から最後まで一気に読まなくても大丈夫。
気になったページを開いて、知らない言葉を一つ知る。
そんな読み方ができるのも、この本の良いところだと思います。
同シリーズの『誰も知らない世界のことわざ』もレビューしています。

まとめ:言葉を知ると世界の見え方が少し変わる
『翻訳できない世界のことば』を読んで、一番印象に残ったのは、「世界には、まだ自分が知らない感情や感覚がたくさんある」ということでした。
モーンガータのように、普段なら見過ごしてしまう景色に名前がついていたり、ヒラエスのように、自分でもうまく説明できなかった感情を表す言葉があったり。
一つの言葉を知るだけで、「そうそう、こういうこと!」と、自分の中にあった感覚に気づくことがあります。
私はこの本を、職場の人間関係に疲れていたときに読みました。
当時は、何が嫌なのか、どうしてこんなに疲れているのか、自分でもうまく説明できなかったように思います。でも、この本を読んでいると、「自分の気持ちを、無理に一つの言葉に当てはめなくてもいいのかもしれない」と思えるようになりました。日本語にぴったりの言葉がなくてもいい。説明できない感情があってもいい。
世界には、自分がまだ知らないだけで、いろいろな感じ方や考え方がある。
『翻訳できない世界のことば』は、外国語を学ぶための本というより、「自分とは違う世界の見方を知る本」なのかもしれません。そして、言葉を知ることは、単に知識が増えることではなく、今まで見えていなかった感情や景色に気づくことでもあるのだと思います。
もし最近、毎日が少しつまらなく感じたり、自分の気持ちをうまく言葉にできなかったりするなら、一度この本を開いてみてください。
YODAKAもしかすると、今のあなたにぴったりの「翻訳できないことば」が見つかるかもしれません。
『誰も知らない世界のことわざ』と比較した記事はこちらの記事です


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