『翻訳できない世界のことば』を読んで、世界には日本語にはない感情や感覚を表す言葉がたくさんあることを知りました。
そこで気になったのが、「ことわざも国によって全然違うのでは?」ということ。
今回読んだのは、『誰も知らない世界のことわざ』。
「そんなことを、ことわざにするの?」と思わず笑ってしまうものから、「これ、日本でも使えそう」と思うものまで、世界のことわざがたくさん紹介されています。
実際に読んでみて面白かったことわざや、そこから感じた世界の価値観について紹介します!
『誰も知らない世界のことわざ』とは?
どんな本?
- 著者:エラ・フランシス・サンダース
- 翻訳:前田まゆみ
- 出版社:株式会社 創元社
- 発売日:2016年10月10日
- ページ数:本文106ページ
- どんな形式の本なのか:世界の奇想天外なことわざを集めたイラスト付きの本
ことわざ辞書のようなものではなく、読んだ人が自由に解釈して楽しむ本です。
前作『翻訳できない世界のことば』がことば集としたら、こちらの本は「詩集」といった感じでしょうか。国の価値観や常識など、微妙に違いを感じます。なので、前作よりもやや解釈の難易度が上がります。「こんな文化があるんだ〜」という発見も楽しみつつ、日本との違いを見つけてみると面白いです。
前作『翻訳できない世界のことば』レビューについてはこちらの記事でも紹介しています。

世界の「ことわざ」って、そもそも何?
日本のことわざを例にすると、
- 石の上にも三年
- 猿も木から落ちる
- 急がば回れ
ことわざには、その国や文化が大切にしてきた価値観が詰まっています。その各国のことわざを集めたのが『誰も知らない世界のことわざ』です。直訳すると「え!?」ですが、意味を知るとその国の面白さに気づけます。
『誰も知らない世界のことわざ』で印象に残ったことわざ
先に、この記事で紹介することわざ6つを一覧にしておきます。気になることわざがあったら、表の言葉をタップすると該当の説明までジャンプできます。
| ことわざ | 国・言語 | どんな意味? |
|---|---|---|
| エビサンドに乗って滑っていく | スウェーデン語 | 働かずに安楽に暮らしている人のこと |
| あなたのレバーをいただきます | ペルシャ語 | 食べてしまいたいくらい愛おしいという、深い愛情のことば |
| オオカミの口の中へ! | イタリア語 | 「幸運を祈る」「がんばれ」という応援のことば |
| ラディッシュを下から見る | ドイツ語 | 「もう死んで埋葬されている」という、遠回しな死の表現 |
| ウサギになって旅をする | フランス語 | 切符を買わずに旅をする密航者のこと |
| うまうま、とらとら。 | 中国語(北京語) | 「いい加減」「まあまあ」というニュアンス |
① エビサンドに乗って滑っていく|「そんなことわざあるの?」と驚いた

- ことわざ:エビサンドにのってすべっていく
- 国・言語:スウェーデン語
- 意味:働かずに安楽に暮らしている人のこと
- 使われる場面:富にふさわしくない人に対して皮肉な意味で使う
ことわざを知った時の感想
「なぜエビサンド!?」でした。
スウェーデン人とエビサンドには深い絆があるのかもしれません。著者によると、「エビサンドに乗る=働かなくても良い暮らしができている」という意味だそう。今の境遇を得るために、一生懸命に働く必要がない人のこと、面白い表現だなと思いました。どちらかというと、格差を感じる側が使うことわざなのかなっていう印象があります。
最初は、歌詞にありそうなカッコいい表現と思ったんですが意味を知ると深い。謙虚であることを日本では良いことだと言われています。スウェーデンでも富を得たからといって「調子乗るなよ」みたいな、ことわざがあるんだっていう驚きです。
② あなたのレバーをいただきます|日本の映画のタイトルにも採用?

- ことわざ:あなたのレバーをいただきます
- 国・言語:ペルシャ語
- 意味:「食べてしまいたいくらい愛おしい」「あなたのためなら何でもする」という、深い愛情を表すことば
- 使われる場面:家族や恋人など、大切な人への愛情を伝えたいとき
ことわざを知った時の感想
「レバーを食べたい」と言われて、愛を感じる人は日本にどれくらいいるでしょうか。
最初に意味を知ったとき、正直ちょっと引きました(笑)。でも読み進めると、「あなたのためなら何でもする」「心から愛している」という意味が込められているそうで、なるほどと思い直しました。
このことば、どこかで見た発想だなと思ったら、住野よるさん原作の小説、映画化もされた『君の膵臓をたべたい』が浮かびました。大切な人の一部を、自分の中に取り込みたいくらい愛おしい、という意味が込められたタイトルだったと言われています。ペルシャ語のレバーと、日本の膵臓。臓器は違うけど、発想の根っこは似ている気がしませんか。
日本のことわざに「あなたを食べたい」なんて直接的な表現はさすがにありませんが、可愛い赤ちゃんや動物を見て「食べちゃいたいくらい可愛い」と言うことは、日常でもよくあります。国が違っても、愛情が強すぎると「食べたい」に行き着くのは、案外人類共通の発想なのかもしれません。
③ オオカミの口の中へ!|ちょっと笑ってしまったことわざ

- ことわざ:オオカミの口の中へ!(In bocca al lupo)
- 国・言語:イタリア語
- 意味:「幸運を祈る」「がんばれ」という応援のことば
- 使われる場面:試験や本番前など、相手を励ましたいとき
ことわざを知った時の感想
応援のつもりで「オオカミの口の中へ!」って言われたら、普通に怖いです。物騒すぎませんか、と思わずツッコミたくなりました。
しかも、これに対する正しい返事も強烈で、「くたばれオオカミ(Crepi il lupo)」と返すのが作法なんだそうです。応援してるのか、オオカミを恨んでいるのか、もうよく分かりません。
由来をたどると、狩人が猟に出る家族に対して、オオカミに襲われず無事に帰ってきてほしいという願いを込めて使い始めたことばだと言われています。危険や脅しの意味は一切なくて、むしろ相手の無事を願う優しさから生まれたことばだったんですね。日本だったら「いってらっしゃい、気をつけてね」で済むところを、わざわざオオカミを持ち出してくるあたりが、イタリアらしいというか、表現がいちいちドラマチックだなと感じました。
YODAKA褒め言葉なのか脅し文句なのか、いまだに整理できていません(笑)
④ ラディッシュを下から見る|人生について考えさせられたことわざ


- ことわざ:ラディッシュを下から見る
- 国・言語:ドイツ語
- 意味:「あなたはもう死んで埋葬されている」という、遠回しな「死」の表現
- 使われる場面:はっきり「死んだ」と言わずに、婉曲的に伝えたいとき
ことわざを知った時の感想
土の中に埋まっていて、地上に生えているラディッシュの根っこを、下から見上げている。想像すると、なかなかシュールな絵です。でも、直接的に「死んでいる」と言わずに、こんな遠回しな表現を選んだところに、ちょっとした優しさを感じました。
正直に言うと、このことわざを読んだとき、他人事に思えなかった時期のことを思い出しました。何年か前、体調を崩して休職して、そのまま辞めることになり、1年近く家からほとんど出られなかった時期があります。あのころの自分は、生きてはいたけど、社会的にはたぶん土の中にいたようなものだったなと、今振り返ると思うんです。
働いていない、外に出ていない、誰とも話していない。そういう状態を「死んでいる」とまでは言わないけれど、地上から見えなくなっている感覚は、確かにありました。ラディッシュの根っこは、土の中でもちゃんと生きて育っているはずです。見えないところにいても、枯れているわけじゃない。当時の自分にそう言ってあげられたら良かったなと、このことわざを読みながら思いました。
⑤ ウサギになって旅をする|日本人にはない発想だと思ったことわざ


- ことわざ:ウサギになって旅をする(voyager en lapin)
- 国・言語:フランス語
- 意味:切符代を払わずに旅をする密航者、正規の乗客として登録されていない人のこと
- 使われる場面:無賃乗車をしている人を指すとき
ことわざを知った時の感想
なぜウサギなのか、意味を知ってもしばらく謎でした。調べてみると、1885年ごろからある古いことばで、当時の乗合馬車には、車掌が運賃をこっそり自分の懐に入れるために、正規の記録には残さず乗せていた「登録されていない乗客」がいたそうです。その存在をウサギに例えたのが由来だと言われています。
日本語にも「タダ乗り」「キセル乗車」ということばはありますが、動物には例えません。人をこっそり動物に置き換えて表現する発想は、日本のことわざにはあまりない気がします。
しかも、由来をたどると車掌の不正が起点になっているのが面白いところです。ズルをしていたのは乗客じゃなくて車掌の方だったかもしれないのに、いつの間にか「登録されていない乗客」を指すことばとして定着してしまった。誰の視点で歴史が語られるかによって、ことばの意味って変わっていくんだなと、ちょっと考えさせられました。
⑥ うまうま、とらとら。|今後使ってみたいことわざ


- ことわざ:うまうま、とらとら(马马虎虎/マーマーフーフー)
- 国・言語:中国語(北京語)
- 意味:「いい加減」「大雑把」「まあまあ」というニュアンス
- 使われる場面:物事を大雑把に済ませたときや、完璧じゃなくてもいいと伝えたいとき
ことわざを知った時の感想
直訳すると「馬、馬、虎、虎」。もう字面から可愛くて好きになりました。
特に深い意味を考えなくても、語感だけで気に入ってしまいます。
由来には、こんな言い伝えがあるそうです。昔、ある画家が絵を描いていて、途中まで虎を描いていたのに、依頼主が「馬がほしい」と言ってきたので、そのまま馬の頭を足して仕上げてしまった。結果、馬なのか虎なのか分からない中途半端な絵になり、誰にも気に入られなかったという話です。
その画家には正直同情してしまいますが、「馬でも虎でもいい、まあまあでいいじゃん」という開き直りが、ことばとして今も残っているのが面白いところです。完璧じゃなくていい、大雑把でいい、そう思いたい日に「うまうま、とらとら」とつぶやいてみようと思います。特に意味なんて考えなくていい、そのゆるさが今の自分には心地いいです。
日本のことわざと比べてみると見えてくる、世界との価値観の違い
ここまで6つのことわざを紹介してきましたが、日本のことわざと並べてみると、国ごとの「大切にしているもの」の違いがくっきり見えてきます。特に印象に残った、2つの角度から比べてみたいと思います。
日本では「我慢」が美徳になりやすい?
日本のことわざには「石の上にも三年」「継続は力なり」のように、我慢して努力を続けることを良しとする表現がたくさんあります。つらくても耐えて続けていれば、いつか報われる。そういう価値観が、ことばの中に染み込んでいる気がします。
①で紹介した「エビサンドに乗って滑っていく」も、実はこの価値観と近いところにありました。働かずに楽な暮らしをしている人を、皮肉を込めて表現することば。裏を返せば、スウェーデンにも「ちゃんと働くべき」という感覚があるんだと思います。
対して⑤の「ウサギになって旅をする」は、切符を買わずに乗り物に乗る人を、深刻に責めるというより、ちょっと呆れながらことばにしている印象を受けました。ズルをする人が一定数いることを、前提として受け止めているような。
日本だったら「不正乗車は絶対ダメ」で終わりそうなところを、ことばとして残しておくおおらかさに、国民性の違いを感じました。
同じことを言っているのに、表現が全然違う
日本語の「頑張ってね」に近い意味で使われることばが、③の「オオカミの口の中へ!」でした。伝えたいことは同じ、相手の幸運を願うエールです。でも、日本語には「オオカミ」も「口の中」も出てきません。危険なイメージを使ってまで応援するという発想は、日本のことわざにはあまりない気がします。
②の「あなたのレバーをいただきます」も同じです。「大切に思っている」という気持ちを伝えたいだけなのに、選ばれることばは「食べたい」。日本なら「大切にするね」「大好きだよ」で済むところを、わざわざ内臓を持ち出してくる。伝えたい気持ちは同じでも、たどり着くことばがこんなに違うのかと驚きました。
人間が感じていることや伝えたいことは、実はそんなに変わらないのかもしれません。ただ、それを何にたとえるかは、国や文化によって全然違う。
同じ気持ちに、こんなに違う衣装を着せられるんだなと、ことわざを読み比べていて感じました。
『誰も知らない世界のことわざ』を読んで感じた3つのこと
6つのことわざを紹介してきましたが、実際に読んでみて自分の中に残った感覚を、3つに整理してみました。ことば自体を覚えたというより、読む前と読んだあとで、人や国に対する見方が少し変わった気がしています。
① ことわざには、その国の価値観が詰まっている
ことわざって、誰か一人が思いつきで作ったものじゃなくて、その土地で長い間くり返し使われてきた、生活の知恵みたいなものだと思います。だからこそ、何を大切にしているのか、何を嫌っているのか、人生をどう捉えているのかが、そのまま透けて見えてくる気がしました。
「エビサンドに乗って滑っていく」からは、働かずに楽をすることへの視線の厳しさが見えたし、「うまうま、とらとら」からは、完璧じゃなくてもいいという開き直りの気楽さが見えました。同じ「ことば」でも、そこに詰め込まれているものは国によって全然違う。
ことわざは、辞書に載っている単語よりずっと、その国の空気を教えてくれる気がします。
② 人間って、国が違っても意外と似ている
今回いちばん面白かったのは、恋愛、失敗、怠け、欲、人間関係。結局どこの国の人も、悩んでいることはだいたい同じということ。
②の「あなたのレバーをいただきます」は、誰かを愛しすぎて困ってしまう気持ち。⑥の「うまうま、とらとら」は、完璧を目指すのに疲れてしまう気持ち。④の「ラディッシュを下から見る」は、いつか自分もいなくなるという、逃れられない現実。国も言語も違うのに、人が悩んだり、笑ったり、開き直ったりするポイントは、驚くほど共通していました。
違うのは、それを何と表現するか、だけなんだと思います。
悩みの中身は同じでも、たとえに選ぶものが、レバーだったり、オオカミだったり、ラディッシュだったりする。人類はずっと同じことで悩み続けていて、ただその悩みに、それぞれの国の言葉で名前をつけてきただけなのかもしれません。
③ 「正しい生き方」は一つじゃない
日本にいると、「ちゃんと働くべき」「我慢して続けるべき」「無駄なく生きるべき」という感覚を、当たり前だと思い込みがちです。でも、世界のことわざを読んでいると、その「当たり前」は、日本だけの当たり前だったんだなと気づかされます。
⑤の「ウサギになって旅をする」のように、ズルをする人を深刻に責めすぎない国もあれば、⑥の「うまうま、とらとら」のように、大雑把でいいと開き直ることばを大切に使い続けている国もある。「ちゃんとしなきゃ」「完璧にしなきゃ」と思い詰めやすい自分にとって、こういうことわざは、少しだけ肩の力を抜かせてくれるものでした。
正しい生き方なんて、たぶん一つじゃありません。
世界にはこんなに色々な「まあまあでいい」があるんだから、自分にも、もう少し適当に生きていい日があってもいいのかもしれない。そんなふうに思わせてくれることわざでした。
『誰も知らない世界のことわざ』はどんな人におすすめ?
ここまで読んでくれた方に向けて、『誰も知らない世界のことわざ』がどんな人に向いているか、私なりにまとめてみます。全部に当てはまらなくても大丈夫です。ひとつでも「あ、私かも」と思ったら、書店で手にとってみてほしいです。
世界の文化や海外旅行が好きな人
ことわざの向こうに、その国の暮らしや価値観が透けて見えてきます。
行ったことのない国の空気を、ことばから想像するのが好きな人には、間違いなく楽しめる一冊だと思います。旅先で誰かにこの本のことわざを教えたら、きっと会話のきっかけにもなりそうです。
日本とは違う価値観を知りたい人
「我慢が美徳」「完璧が正解」という感覚が当たり前になっている人ほど、読んでいて視野が広がる本だと思います。世界には、日本とは全然違う「正解」を持っている国がたくさんあることを、ことわざを通して実感できます。
面白い雑学が好きな人
「なぜエビサンド?」「なぜオオカミ?」と、由来を知るたびに誰かに話したくなることばばかりです。
飲み会や雑談のネタとしても使いやすいので、雑学好きな人にはたまらない一冊だと思います。
短時間で読める本を探している人
本文106ページと、ボリューム自体はそれほど多くありません。
1つのことわざにつき見開き数ページなので、通勤時間やちょっとした空き時間にも読み進めやすいです。忙しくて読書の時間が取れない人にもおすすめです。
人間関係や人生について考えるのが好きな人
恋愛、仕事、失敗、怠け心。どのことわざも、結局は人間関係や生き方についての話です。
自分の悩みを、少し離れた場所から眺め直したいときに、ちょうどいい距離感をくれる本だと思います。
前作と『誰も知らない世界のことわざ』どっちがおすすめか?比較した記事はこちらです


まとめ|世界は思っているより広くて、人間は思っているより似ている
『誰も知らない世界のことわざ』を読み終えて、最初に感じたのは「ことわざって、こんなに自由でよかったんだ」ということでした。
ことわざと聞くと堅苦しくて古めかしいイメージがあったんですが、この本に出てくることばは、どこかユーモアがあって、クスッと笑えるものばかりでした。
世界のことわざを読んでいると、「こんな考え方があるんだ」と驚く一方で、「結局、人間が悩むことって世界中どこでも似ているんだな」とも思います。
恋愛で悩んだり、失敗したり、怠けたくなったり、人間関係に疲れたり。
国も文化も違うのに、悩んでいることは意外と同じ。
ただ、それを表現する言葉や例えが違う。
ことわざは、その国の人たちが長い時間をかけて残してきた「人生の捉え方」なのかもしれません。
世界は思っているより広くて、人間は思っているより似ている。ことわざを読み終えて、いちばん心に残った実感でした。
前作『翻訳できない世界のことば』を読んだときは、「言葉を知ると、世界の見え方が変わる」という気づきが残りました。今回は少し違って、「世界は広くて、正解はひとつじゃない。でも、悩んでいることは案外みんな同じ」という、ちょっとほっとするような余韻が残っています。
「ちゃんとしなきゃ」「これが正解のはず」と思い詰めそうになったとき、世界のどこかには「うまうま、とらとら」で済ませる国もある。そう思い出せるだけで、少し肩の力が抜ける気がします。次に気持ちが張り詰めたときは、この本を開いて、どこか遠い国のことわざに、頼らせてもらおうと思います。



もし「うまうま、とらとら」だけでも覚えて帰ってもらえたら、ちょっと嬉しいです。次はどんなことわざに出会えるか、今から楽しみにしています。








